静かに迫るコストの脅威。運送業は料金激変時代に備えよ
「日々の運行コストが増えているのは仕方がない」——そう諦めていませんか?
今、政府が推進する「脱炭素」と「渋滞緩和」という国家的な目標が、高速道路の料金制度の根底を静かに、そして根本的に変えようとしています。これは、運送業の利益率に直撃する「料金激変時代」の始まりを意味します。
単にETCカードの割引に頼る時代は終わりです。私たちは、運行計画全体をデジタル技術とデータで最適化し、この危機を成長の機会に変える必要があります。
ロードプライシングの仕組み:何が、いつ、どう変わるのか?
なぜ料金変動制が導入されるのでしょうか?その背景には、看過できない社会課題があります。
導入の2つの目的:危機的損失と国家目標
政府が料金制度を変更する主要な目的は次の2点です。
- 危機的な渋滞損失の解消:NEXCO 3社および本四高速における年間渋滞損失時間は合計2.3億人・時間(H31/R1実績)に上ります。この膨大な損失時間を減らすため、需要(交通量)を時間帯で分散させる必要があります。
- 国家目標「カーボンニュートラル」の達成:運輸部門は日本のCO2総排出量の約2割を占めており、2050年カーボンニュートラル達成のためには、トラック輸送の効率化と電動化が不可欠です。
料金変動の具体例:コストが増える時間帯とは
料金変動制(ロードプライシング)は、渋滞が激しい時間帯の利用を抑制するために、料金を割増しする仕組みです。
| 想定されるエリア | ピーク時間帯 | オフピーク深夜帯 |
| 大都市近郊のボトルネック区間 (東名高速・海老名JCT~横浜町田など) | 平日7時〜10時 | 深夜0時〜4時 |
| 料金変動イメージ | 15%〜30%の割増しが適用される可能性 | 30%以上の割引が適用される可能性 |
【プロの提案】
いますぐ、 現在の運行計画で平日朝7時〜10時に高速道路を利用している走行をすべて抽出してください。この時間帯こそが、将来的に最もコストが増大するリスクゾーンとなります。
法人経営者が直面する3つの運行コスト増大リスク
料金変動制が本格導入された際、運送業の利益を圧迫する具体的なリスクを明確に把握しておく必要があります。
リスク1:特定時間帯のコスト増による利益圧迫
- 影響: 納期厳守のため、ピークタイム走行を避けられない長距離輸送や大都市圏内配送は、必然的に割増料金を支払うことになり、高速料金の増加が最もコストを増大させるリスクとなります。増えたコストを荷主に転嫁できなければ、利益率が直撃を受けます。
リスク2:運行計画の複雑化と労務リスク
- 影響: 料金が変動するたびに、運行ルートや出発時刻を動的に見直す必要があり、運行管理者や配車担当者の業務が複雑化します。コスト削減を優先しすぎて深夜帯へのシフトを強行すると、ドライバーの労務管理や健康面でのリスクが高まります。
リスク3:将来的な環境規制リスク
- 影響: 国はゼロカーボン・ドライブ(EV/FCV/PHEV)の普及を重点対策としています。ガソリン車・ディーゼル車を使い続けることは、将来的な環境規制強化や、税制面での優遇措置を受けられないという中長期的なリスクに繋がります。
【プロの対策】ロードプライシング時代に生き残る運行計画の3原則
ロードプライシングは、単なる値上げではなく、輸送効率化を促す「シグナル」です。ETCとデータを駆使し、この変化をコスト増ではなく効率化のチャンスに変えましょう。
原則 1:データ駆動型の動的経路設計の徹底
- 戦略的活用: ETC2.0を単なる決済機器としてではなく、「戦略ツール」として活用してください。ETC2.0のビッグデータ機能(道路交通流対策)を利用し、渋滞発生予測とリアルタイムの料金情報を統合した高精度な動的経路最適化を実行し、コスト増を回避します。
- 【プロの提案】運行管理システムやカーナビに対し、「料金変動情報」を組み込むよう、IT投資の計画を立ててください。安いルート・安い時間帯をAIが即座に判断する仕組みが必要です。
原則 2:時間帯を意識したコスト分散(時間差配送)
- 戦略的活用: 料金の高いピーク時を避け、交通容量に余裕のある時間帯や深夜帯への配送シフトを、荷主と積極的に交渉してください。深夜帯の30%以上の割引を最大限に享受することで、輸送コスト全体を大幅に下げることが可能です。
- 【プロの提案】荷主に対し、「料金変動制導入後の標準運賃改定案」を提示し、時間指定の厳格な配送には割増し運賃を適用する交渉を先行して行ってください。
原則 3:ゼロカーボン・ドライブへの段階的投資
- 戦略的活用: 短期的な高速料金だけでなく、長期的な燃料コストと環境規制リスクを同時に見る必要があります。長期的には、電動車(EVなど)への移行計画を策定し、「ガソリン代のコスト依存リスク」を軽減することが、将来的な競争力を決定づけます。
- 【プロの提案】燃料法人カードの利用履歴とETC利用履歴を統合分析し、EV導入によるコスト削減効果が最も高い車両から、電動化への移行を段階的に始めてください。
まとめ:未来への投資としての脱炭素と効率化
ロードプライシングは、避けられないコスト増の危機であると同時に、輸送効率化と環境対応を加速させる絶好の機会でもあります。
今、運行体制と車両フリートのデジタル化・グリーン化に投資することが、将来的な競争力を決定づけます。ETCのデータをフル活用し、この難局を乗り越えていきましょう。


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